炎症とアイシング①-炎症は治癒に必要なプロセス-

怪我をした直後、患部が熱を持って腫れてくると、多くの方が「すぐに冷やさなければ」と氷を手に取ります。しかし、近年のスポーツ医学において、炎症は決して「消すべき悪」ではありません。

まず知っておくべきは、**「炎症とは、体が自ら熱を作り出す修復プロセスである」**ということです。

炎症が熱を生む理由

損傷した組織を治すために、体内では急ピッチで化学反応が起こります。この修復のためのエネルギー代謝そのものが熱を発生させるため、患部の温度が上がるのです。 このとき、組織修復を担う酵素が最も活性化する理想的な温度帯が**38℃〜39℃**です。この範囲にある熱は、体が自ら作り出した「治癒の聖域」であり、安易にアイシングで奪ってはいけないエネルギーなのです。

スポーツ現場特有の「40℃リスク」

ただし、スポーツ中の怪我には特有の注意点があります。 運動中の体は代謝によって体温が大きく上昇しており、運動後もしばらく(約30分程度)はその高い状態が持続するというデータがあります。

ここで問題になるのが、「運動による高い体温」に「炎症による熱産生」が加わることです。 この2つの熱が足し算されると、患部の温度は容易に**40℃**という境界線を超えてしまいます。40℃を超えると、組織は修復どころか、自らの熱でダメージを受ける「自壊」の危険にさらされます。

「邪魔をしない」か「消火」か

  • 39℃以下: 治癒を加速させるため、アイシングで邪魔をせず見守る。
  • 40℃以上: 組織自壊を防ぐための緊急的な「消火活動(クーリング)」が必要。

炎症は味方ですが、「スポーツ直後の怪我は、熱の足し算によって最も40℃を超えやすい危険な時間帯である」。この認識こそが、正しい処置のスタートラインとなります。